書きはじめたときは、「幻想小説」をイメージしていました。途中から、母が登場したのですが、それがなぜなのか、自分でもわかりませんでした。幼いころ、迷子になったときに偶然ばったり母と会ったような、そんな感じでした。これだと、私小説みたいだな、と思いました。自分らしくないなと。でも、ラストに近づくにつれて、私小説の枠が半ば自動的に崩れだし、書き終えたときには、こんな小説を書いたのははじめてだと、しばらく茫然としていました。はじめてだし、二度と書けないだろうと思いました。
村上龍