◆ 内部被曝通信 福島・浜通りから ◆

《35》 日本の未来を浜通りに見る 2012年11月2日

今回は、自分の担当する診療のお話をご紹介します。

先日、90歳女性が血液疾患で当院に入院しました。入院前は杖なども必要なく、自分で身の回りのことをこなし、はきはきと話しをしてくださる方でした。入院期間は2~3週間ほど、治療の甲斐があり、入院の原因となった病気は良くなり無事退院しました。

しかし、別の問題が生じました。入院期間中、寝たきりの生活が長く、体力が落ちてしまったのです。

リハビリ部門と連携してできるだけ体力を落とさないように気をつけてはいたのですが、使う薬の副作用も相まって、退院時には自分で身の回りのことはほとんど出来なくなっていました。寝たきりとまではいかないとしても、移動は車いすでなければ厳しい。そんな状況でした。

家族と相談しながら、要介護認定を申請し直したり、介護福祉サービスで使えるものを相談したり、自宅に導入できるものを見直したりと、周辺の状況を整えながら退院の調整をしました。ソーシャルワーカーが頑張ってくれました。

ご家族の方が非常に熱心に介護をされる方だからこそ退院できたのです。その代わり、ご家族は現在、介護に専念している状況です。

ご家族が介護できる状況に無ければ、退院先として、何らかの施設を考える必要がありました。施設はどこも何十人待ちという状態です。非常に遠方でなければ入れる施設は、すぐに見つけられません。福島から青森に行くという選択肢を提示されたこともあるぐらいです。

施設が見つかるまでは、入院を継続しなければならず、さらに体力が落ちます。病院の都合を言えば、退院してもらえないので、次の入院の方が入る場所が無くなります。そして、次の救急車を受け入れにくくなります。

この部分だけを切り出すと、何も浜通りに特化した事情では全くありません。前任の病院でもよくありました。残念ながら日本中の至る所で起きている問題です。

このような問題は、高齢化がどんどん進み、医療者が全く足らない日本の至る所で顕在化し、悪化していってしまうと思います。

ただ南相馬市は、状況が急激に悪化しました。震災後、高齢化が急速に進み、医療者が激減したためです。震災後、65歳以上の人口は全体の30%を超えました。看護師さんは戻ってきているとはいえ、230床あるうちの140床以上で入院を受けることが出来ない状況なのです。20年後の日本のようだと言う人もいます。

もちろん何もしていない訳ではありません。在宅診療部が立ち上がりました。当院の根本先生や原澤先生の尽力です。浜通り訪問リハビリステーションがオープンしました。日本中から医師、理学療法士を始め多くの方々が赴任してくださって日常の診療を支えています。

誰もが日々の業務に必死です。当院でも放射線関連、内部被曝検査関連に多くのスタッフを割き続ける余裕はありません。幸い専属のスタッフ達がいつも一生懸命やってくれているからこそ回っています。

放射線の問題というと、細胞に放射線が当たりDNAが障害されて……といったミクロな話ばかりが出て来るように感じます。しかし、現場で起きているそれ以外の問題にも、もう一度目を向けてほしいと思います。

以前、高血圧や糖尿病など、慢性疾患の悪化についてご紹介しました。放射線が人に当たって「直接」慢性疾患を悪化させている訳ではありません。

今回ご紹介したような、超高齢化、医療・社会システムのダウン、医療者不足が引き起こす問題は、「直接」放射線が当たることで起きている訳ではありません。今まで置いておかれていた問題が、放射線を契機に顕在化しただけです。

こうした状況は、多くの人の日常生活、そして命に直結する重大な問題です。いつも同じ結論になりますが、放射線のことだけではなく、医療全体をバランスよく見渡す必要があるように思います。



ちょっと日々の業務でお疲れの金澤院長と

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